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健康経営向上コラム

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最強戦略としての健康経営(前編)

01-健康経営が日本に浸透した3つの理由

まず、今回の著書のテーマはどういった経緯で決定となったのでしょうか。

テーマは「最強戦略としての健康経営」です。 競争優位とサステナビリティを生む戦略として、タイトルが決定しました。 背景としては3点あり、1点目は健康経営制度が2015年に始まって7年が経過しました。今から3年前に出版した「経営戦略としての健康経営」から健康経営制度の目的・内容が変わりつつあるということです。

2点目が、当初から健康経営に取り組んだ企業については、取組みが8年~10年に入っているため中期的な効果が見えてはじめてきたことです。
3点目が、効果測定ができるようになってきたことにより、投資リターンが推計できるということです。そこで、今回はどのようにリクルート効果を得るのか、ワークエンゲージメントを感じるのかといった測定方法や計算式について掲載しています。
これらの3つを今回の本の主題とし、
健康経営を無形資産・人的資産として位置づけることが最強戦略になると仮定して執筆しました。

健康経営という言葉は、かなり日本の企業に浸透しているイメージですが、ここまで広く浸透したきっかけは何かあるのでしょうか。

前回の本にも書きましたが、「ホワイト500」と命名したのが当時の経済産業省の課長ですが、これが大変うまくいきました。「経済産業省がホワイト企業認定した」という風にメディアなどの記事に掲載され、健康経営が広まった。これが従来の考え方でした。
今回の本では、補助金・助成金等がもらえるわけでもないのに、なぜ日本企業がこんなに健康経営に対して積極的なのかを考えました。今回は、古くからの日本的経営というものに着目しています。いわゆる日本的経営では、終身雇用や年功序列、社訓の唱和、朝礼、ラジオ体操などの慣習がありました。
健康経営の取組みでも、企業オリジナルの体操を作るというものもありますが、昔の日本的経営でやっていたことと似ています。
ということは、日本的経営と健康経営というのはマッチしているのではと考察し、海外から持ち込まれた健康経営という考え方が、スムーズに受け入れられ、これだけ普及したのではないかと考えています。

ふたつ目の理由として、京都における企業文化にも関連があると考えました。
昨年までの健康経営銘柄に京都の企業は5社ほど入っていました。2019年に銘柄企業を訪問した際に担当者よりお伺いしたのは、「当社は健康経営をやっていない」と。では、何をやっているかというと、ミッションを強化する過程で社員を大切にする経営戦略を進めていった結果、健康経営に結びつき、銘柄に認定されている。と。
そういう考え方が京都の企業では多いです。オムロンもその中のひとつですね。もともと「健康経営」とは言わずに「社員を大切にする」、「グローバル企業になっていく」という考えの中で、京都という狭い地域間で人を取り合わないといけない、良い人材を取り合う中で社員を大事にする会社が受け入れられたのです。
もう一つ、日本では老舗といわれている企業(100年以上続く会社)が世界でもダントツに多いです。
老舗企業では社員が親・子供・孫まで入社する、ということもあります。つまりその会社では「長く健康に働ける」というイメージがあります。
日本ではもともと従業員を家族のように扱う、養うという文化があり、これらをふまえ健康経営は、日本で普及しやすい土壌が従来から存在していたのではないかと考えています。

02-【2022年】ホワイト500認定企業の傾向

健康経営優良法人2022(ホワイト500)の認定企業が公表されました。2021年度と比較して業種別認定数に変動が見受けられますが、先生の考察をお伺いしたいです。また、2022年度の健康経営銘柄に選ばれた企業の共通する特徴はありますか。

2021年度の特徴はトヨタ自動車、富士通など大企業とその関連会社が多く認定されていました。
これは「スコープの拡大」を経産省が掲げているためです。メインとする会社が健康経営資源を持っているので、その関連会社も健康経営を実施してくださいと、日本を代表する大企業を選んでいるのが昨年の特徴ですね。関連のグループに普及させるのが狙いだからタイトルも「健康経営日本代表48社」でした。
そのため、「健康経営の普及においてセミナーをやっていますか?」などの質問がなくなり「関係会社に対して何か支援をしていますか」といった質問に変わっています。

経産省はここ5年くらいこうした普及活動をしていましたが、健康経営自体の認知度が広がってきたので、2022年度はテーマを変更しています。

2022年度のタイトルは「健康こそ会社の社会の原動力だ」です。
今回の特徴として、過去最大の19社の入れ替えがありました。50社認定中の19社なので約4割も入れ替えています。

8年連続認定されたのは、花王・SCSK・大和証券のみとなります。東急電鉄、TOTOなど今まで選ばれていた企業が外れています。
ということは、全体の取り組みがレベルアップしており,競争が激化したのではないかと思います。
キーワードとしては、体重・肥満の削減、ウォーキングなどの運動習慣、残業削減、ワークライフバランス、産業医等の保健スタッフの活用などが評価されています。
従来の産業保健活動や安全衛生活動のみでは銘柄認定では順位を下げているとの印象です。これは経産省が「健康経営とは何か」と考えたら運動習慣などですよねと、考えたと思われます。
ちなみに2021年度で一番選ばれたのは「食事」です。
2022年度は「運動」の年。
さらにレポートをよく見るとわかるのは「企業の文化が変わった、ヘルスリテラシーが上がった」などの幅広い項目が評価されています。少数ですが「コミュニケーションの促進」や「組織の活性化」なども選ばれ始めています。
随分と産業保健の領域から離れた内容、経営指標に着目した内容や、従来から変わった視点で選ばれているというのが私の感じる2022年度の印象です。

レポートにある「ICTツールを使ったコミュニケーションの促進」は今後も評価されますか?

素晴らしい観点ですね。経済産業省のヘルスケアの目的は2つあって、ひとつは健康経営の促進、もうひとつはヘルスケア産業の創出です。
ヘルスケア産業の創出において、ICTの活用はずっと掲げている目標なので、意図的に入れていると思います。ICTを活用した企業を選んで特徴を見せることで、健康経営銘柄でない企業は力を入れよう・導入したいと考えるのではないでしょうか。それにより、産業が活性化する。そういう意図もあると思います。

03-コロナ禍を経て変わる健康経営のトレンド

2020年-2021年はコロナ禍も影響し、企業の健康経営自体も感染症等に注力した企業が多くなっていると思いますが、2022年以降は、企業において重要視される健康経営のポイントはなにとお考えでしょうか。

経営で見ればBCP(事業継続計画)=危機管理をしている会社は残っていきます。社内で3割の新型コロナ感染者が出ても会社を回さなければいけないという状況ですからね。
働き方でみれば、ジョブ型。つまり育成するのではなく、職務に合う人を募集するという考えが強まるでしょう。
個人では自己免疫力の向上。免疫力が高ければ、感染症にかかりにくい。では、健康増進を、という考えに向かっていくのではないかと思います。

コロナによって、リモートワーク、テレワーク、ワーケーション、ヘルスツーリズムというもの出てきましたが、これらと健康経営をどうマッチさせるのか、ということが課題になってくると考えています。

たとえばヤフーが職場自由・住居自由にしましたが、そういう企業では社員の健康はどこまで管理すべきなのか。それはこれからヤフー自身が答えを見つけないといけないでしょう。
短期的に言えばウェルビーイングが高まって生産効率性は下がっていないということだが、中期的にはデメリットが出てくるかもしれないです。
また、ヤフーのような会社ならできるが、業種などによってはこのような施策の実施が難しいということもあります。
ワーケーション、ヘルスツーリズムも流行っていますが、健康経営での文脈でできているところは少ないと思います。

コロナ禍を経て今後の健康経営のニューノーマル、ニュースタンダードはどのような変貌を遂げるとお考えでしょうか。

健康経営自体がニューノーマルになるかどうかはまだわからないですが、最近の特徴は健康経営に取り組んでいる企業を増やしたいという、地方公共団体が増えています。
その理由の1つ目は、健康経営企業を増やすと、地域住民のヘルスリテラシーが上がり医療費の削減が期待できるからです。(ヘルスリテラシー=健康に対する知識)

高校生までは保健体育の授業がありますが、大学生になると、健康について学ぶ機会はなくなっていきます。実は大学が一番生活の変化が大きい、一人暮らしを始めるなど、個人の生活習慣管理が必要な時期なのです。その後、健康経営に取り組む会社に就職できれば、ヘルスリテラシーは向上しますが、そうでない会社に入ると上がらないままになります。

例えば京都市は、地元の健康経営銘柄企業の担当者を、京都市の保険組合に入れました。その理由はワコールや島津製作所などのOB・OGはヘルスリテラシーが高いためです。
毎年全員が健診を受け、市の健康増進のイベントにも積極的に参加します。こういう人たちは長年勤務する中で、毎年健康診断を受けるのが当たり前、健康増進をするのが当たり前で、定年退職等で地域に戻ってもそれをやるのが当たり前の習慣になっているのです。そういう人は医療費がかかりにくいのです。
健診を受けず、急に大きな病気にかかり医療費がかかる。ということも少ないので、地方公共団体はこれから健康経営企業を増やしていこうという流れになっています。

もうひとつの理由が、健康都市宣言というものがあり、日本全国で100か所以上が宣言しています。地域によっては健康経営都市宣言もしています。さらに新潟県や茨城県など、健康経営企業を増やす取組みもしています。

地域が健康都市をめざしても、ウォーキング道路や自転車道路を作るのが定番の施策です。そして、ただ道路を作っても企業が社員に対して歩くことや自転車通勤を推奨しなければ、車で通勤してしまいます。それでは排気ガスも減らないし、健康にも貢献しません。
健康都市は企業の協力がないと成り立たないので、地域側は健康経営企業を増やそうという動きが活発になっていくでしょう。
また、カーボンオフセットという意味では、2050年に炭素社会からの卒業を宣言しており、環境に対して国を挙げて取り組まないといけないという時代が来ています。そのために排気ガスを削減するウォーキングや自転車通勤を推奨する健康経営が一つの答えになると考えています。

また、企業の持つ健康経営資源を地域に広げていくという動きもあります。

例えば、昨年サンスターが新しいコミュニケーションセンターを作りました。
敷地内にオフィス、広場そして食堂があり、オフィス以外は地域住民が利用でき、共有スペースには歯科衛生士が滞在して、歯ブラシを無料で試すことができます。また、サンスターが健康食堂で培ったメニューをレストランで提供していて、地域住民も食べることができます。
それだけではなく、サンスターのある高槻市では、自治体が主催する歯科に関わるセミナーはすべてサンスターが協賛し、行うといったことも可能になります。そのほうが良質な情報が手に入りますし、わざわざ自分たちの資源を使わなくても、企業の資源を使うことで完了できます。
自治体は限られた資源しかなく、企業の力を借りたい状態ですので、今後ヘルスケア関連の企業が地域に還元するというトレンドは続いていくと思います。

自治体によっては補助金を出して、健康経営宣言を促すという取組みをしているところがあります。だが、それだけで企業は動くのかと考えると難しいのかなと思います。それ以外にも地域と企業の連携での課題はありますか。

素晴らしい質問ですね。おっしゃるとおり補助金を増やしても企業は動きにくいです。
例えば茨城県の取組みですが、茨城にはふたつの国立大学があります。茨城県は国立大学に足を運んで、「地域で就職するなら認定する健康経営企業に積極的に就職してください」とキャリアセンターにアピールしていく予定です。
企業に、健康経営宣言を制定し、認定されれば、優秀な学生を積極的に採用できる可能性があるという道を見せようとしているのです。このような取組みにより、茨城県では倍くらいの企業が健康経営に取り組むことになりました。
キャリアセンターも良い人材に、茨城県内で健康経営を実施しており、長く健康に働ける企業に就職させたいと思っているので、利害が一致しています。
この仕組みを地域が用意するということがポイントです。
お金を出すのは一番簡単な方法ですが、それ以外に地域の企業が抱える採用という課題に対して、できることを本気で考えて動いた結果が出ていると思います。

≫ 最強戦略としての健康経営(後編)に続く

著書の紹介

  • ・「最強戦略としての健康経営: 競争優位とサステナビリティを生む人的資本のためのビジネスモデル」

内容紹介(出版社より)

健康経営について、日経平均採用225銘柄のうち8割が健康経営度調査票に回答し、上場企業全体では25%強が回答しており、大企業を中心に普及している。そうした状況を踏まえつつ、本書は、健康経営を経営戦略の一つと位置付け、他の様々な経営戦略とも比較し、健康経営の取り組みの現状、健康経営の考え方とイノベーションまでの見据えた効果、効果をえるための具体的な手法についてわかりやすく解説、企業や非営利組織が健康経営に取り組むことで生まれる企業競争力とサステナビリティについて考察する。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

  • 第1章 健康経営の現状
  • 第2章 健康経営の期待される効果
  • 第3章 健康経営の取り組み手法
  • 第4章 健康経営の今後の展開