健康経営支援サービス
健康経営を担う人事ご担当者様に、
役立つ情報を発信しています。
目に見えるものはイメージアップとリクルート効果が一番わかりやすいですね。それ以外にモチベーションアップや生産性の向上もありますが、それらは中長期にならないと見えにくいものでもあります。
特に長期的に見えにくいのが、ひとり当たりの医療費、また企業文化が根付いているかもわかりづらいです。
ブランドロイヤリティ、株価については多くの企業では測定が出来ていない部分でもありますが、きちんと測定すれば出せると思っています。
新刊にも記載していますが、ヘルスリテラシーは伝達的・批判的ヘルスリテラシー尺度 (Communicative and Critical Health Literacy, CCHL 以下、CCHLとする)という指標があります。
多くの企業は従業員満足度調査やロイヤリティ調査はやっていますが、個人的には健康経営度調査を全社員対象に年に1回程度はやったほうが良いと思っています。
そこでCCHLなどの指標をしっかり測っていけば、健康経営の効果測定が可能な数字が出てくると思います。
期待される効果 | 短期 | 中期 | 長期 |
---|---|---|---|
イメージアップ | メディア掲載数と その広告換算額 |
株価 | ブランドロイヤリティー |
リクルート効果 | 内定者アンケート | 内定辞退率、 ターゲット校採用数 |
応募者一人当たり採用コスト、 応募倍率 |
モチベーション アップ |
モチベーション (従業員ロイヤリティー・満足度) |
ワークエンゲージメント、 心理的安全性 |
ヘルシーカルチャー、 イノベーション |
生産性の向上 | 欠勤率や アブセンティーイズム |
離職率 | プレゼンティーイズム |
医療費の削減 | 総合健康リスク度 | 高ストレス者数 | 一人当たり医療費 |
その他 | 会話数&話題数 ヘルスリテラシー |
イベント参加率や満足度 | 信頼度 |
まずは健康経営を始めるときにアンケートを取ることが大切です。
このアンケートで聞くべきポイントは、「健康に課題を感じているか」と、「会社から健康について介入されたいか」の2点です。
健康経営の目標については「100%を目指すのが当たり前だ」と考えていることが多いのですが、実は大体1~2割くらいの方は、会社から介入されたくないと思っているので、実際の目標値は8割になります。これが抜け落ちると、目標に対しての効果測定ができなくなってしまいます。
また、このアンケートには従業員へのアナウンス効果もあります。「会社が健康に介入する可能性がある」ということアナウンスすることで、その後の施策をスムーズに進めることができます。
次に、数値を測ることも重要です。
よく企業が実施するイベントの後の満足度アンケートは、評価が高くて当たり前なので、あまり意味がありません。そして、任意のイベントはそもそも意識の高い人しか来ないという実状があります。
企業からすると、意識が低くリスクの高い人に参加してもらいたいのに、そういう人は来ないのです。
だから、イベントをただ開催するのではなく、全員が参加できる仕組み、むしろ意識が低い人が参加するための仕組みを用意する必要があると思っています。そして、意識の低い人たちがきちんと参加しているのかを調べる必要があります。
メンタルでも、高ストレス者で面談を希望しない人は8割いるといわれています。そこに介入するには、従業員個人に対しての任意と強制、また職場環境に対しての任意と強制の施策をマトリックスで組んで、参加できる仕組みを作らないとうまくいきません。
このような仕組みを続けることで、長期的には「意識の低い人たちが何割改善した」等の数字が出てくると思います。
例えば、オフィスの中にマッサージルームがあると、ヘルスリテラシーの低い人が多く来ると言われています。そこで、セラピストが健康アドバイスをするなど、の行動変容を促す仕組みを作るといったことは可能だと思います。
全体介入で取り入れやすいのは食堂ですね。社員食堂があれば95%の社員が使うといわれています。 例えば魚は100円引きで肉は100円高い。また、何を買っても野菜は自動でつく、など確実な介入が可能です。
よかったところは、ホワイト500や健康経営銘柄に選ばれていない企業にもたくさんあります。
先述のサンスターは、健康道場という概念で長く取り組んでおり、地域にも貢献しています。
また、フジクラは調査票さえだしてないが、取組みとしてはすごく進んでいます。
実はフジクラの社員は、会社が「健康経営をしていない」と感じています。それは取り組みが既に会社生活の一部となって浸透しているからですね。
・エレベーターは外来者しか使わず、社員は外側の階段を使う。
・体組成計が各フロアにおいてあり、社員が休憩中などに乗る。
・任意のイベントでも約95%が参加する。
これは、社員にとっては取組みが生活の一部となっているからで、それが15年も続いているのです。
会社が健康経営を推奨しなくても、社員が健康について取組み、効果を実感しているので、企業文化として根付いていることが素晴らしいと思います。
今後もっとがんばってほしい、ポテンシャルを感じるのは、データ活用ですね。
例えば、社員食堂でトレイに食品を置くと、自動で判定しカロリー計算をしてくれ、さらにその結果から明日のメニューをリコメンドするといった仕組みが作れます。
人によっては「そこまでしてほしくない」と思う人もいるでしょうが、特に20代では「レコメンドは助かる」という声が多く、受け入れやすい印象です。
ここは世代間ギャップがあるのかなと思っています。
ただ、世代だけではなく、個人の考えに合わせてカテゴライズし、One to Oneの戦略をたてていくことが必要になると思っています。それだと素直に受け入れやすいということもあります。
これはマーケティングの世界では当たり前の考えですが、今後データが蓄積していけば、健康経営にも取り入れられるのではないかと思っています。
新刊では新しい概念をひとつ提案しています。近い将来から調査票に「CCHLを計測していますか」という質問が出ると思います。それに近いもので、ヘルスリテラシーとウエルネスキャリアという新概念です。
人生100年時代の今、「20代は人材育成→30代マネジメント研修→50代キャリアと外の世界の関わり→60代引退後の生活」という従来のやり方は合わなくなってきます。そもそも定年という概念自体がなくなっていくでしょう。
そうなると、健康という側面での人材開発も必要になります。これがウエルネスキャリアです。
つまり会社がメンタル、肉体面の健康をサポートすることで、長く働いてもらえるように介入していく必要があるという考え方です。
例えば、20代ではメンタル・レジリエンス、30代では食事・睡眠・がん、40代はタイムマネジメント・運動、50代からはオーラルケア、60代からは認知症予防、70代からはフレイル対策など、こういった教育を会社が行う必要があります。
併せて、管理職の健康経営マネジメント力の強化が必要です。
これは「中間管理職が動かないと健康経営は浸透しない」という考えからです。
管理職の社員が疲れている部下に対して単に「がんばれ」というだけのではなく、「今日は早く帰ってしっかり休んで、明日は集中してやれるようにしよう。」というようなアプローチができることが求められます。現場の管理職がこういうことができると、組織として健康経営が根付いていくと考えています。
基本的には、20代の若い世代からお金をかけていくべきですが、健康に関して言えば、年代ごとの課題は出てくるので、どの年代だからやらなくていいということではないと思います。
予算の面では、これはお金をかけなくてもできるのではと思っています。自社の産業保健スタッフに相談したらプログラムはできていくのではないでしょうか。
健康経営のなかに人材開発の項目を入れるべきだと私はずっと提言しています。
人材開発と健康経営は同じだと考えて進めていく、そういう理解が必要だと思っています。
これからは60歳定年で老後はゆっくり、なんてないですよ(笑)。生涯現役社会です。
70代になっても働く人が増えるなかで、今の30代、40代に何ができるのかという視点にたてば、自ずと考える必要が出てくるでしょう。
研修期間 | 人材開発等 | 健康経営等 |
---|---|---|
20代 | 仕事の方法、目的、責任 | メンタル、レジリエンス |
30代 | リーダーシップ、部下を使う責任 | 食事や睡眠、ガン |
40代 | マネジメント、ダイバーシティ | タイムマネジメント、運動 |
50代 | 社会人キャリアと外の世界との関係 | オーラルケア、更年期障害 |
60代 | 今後の人生の目標、老後のお金の計算 | 認知症予防プログラム |
70代 | ―(当時は無い) | フレイル対策 |
入社時 | コミュニケーション、メンタル対策 | |
管理職 | 意思決定理論、組織活性化 | 健康経営マネジメント力 |
※筆者作成
直近では2022年4月21日に経済産業省とセミナーを行います。
内容はリクルート効果についてです。
今年に入ってすぐ、パーソルワークスデザイン社と転職者の調査をしました。
その結果、健康への関心度は76%で、年代が高い人ほど転職に対しての健康への影響に配慮するようになりました。これはコロナの影響もあると思います。
また、転職後の仕事への満足度や生活幸福度が高い人は、仕事の目的に金銭面以外を挙げる人が多いです。つまり、従来のようにお金のために働くというより、健康でお金もある程度もらえ、仕事への満足度や生活幸福度が高いことを転職先に求めているという傾向が徐々に出始めています。
さらに、健康経営の認知度は若年層(20代-30代)ほど高いです。転職する若年層は健康経営を認知しており、転職先を「ホワイト500認定企業」と認知している人ほど、仕事満足度と生活幸福度が高いと出ています。
なので、そこを上手に求職者にアピールできれば企業側は健康リテラシーの高い層を採用することができるし、仕事満足度が高く、長く、ハイパフォーマンスで活動してもらえる可能性が高くなってきた、ということが見えてきました。これは今年中に論文化する予定です。
また、企業の訪問プロジェクトも引き続き行う予定ですし、健康経営に対して学生が感じていることについて調査をかける予定です。
・本サイトでは、新井先生の健康経営向上コラムを連載予定です。ぜひご期待ください!
健康経営について、日経平均採用225銘柄のうち8割が健康経営度調査票に回答し、上場企業全体では25%強が回答しており、大企業を中心に普及している。そうした状況を踏まえつつ、本書は、健康経営を経営戦略の一つと位置付け、他の様々な経営戦略とも比較し、健康経営の取り組みの現状、健康経営の考え方とイノベーションまでの見据えた効果、効果をえるための具体的な手法についてわかりやすく解説、企業や非営利組織が健康経営に取り組むことで生まれる企業競争力とサステナビリティについて考察する。